ブラックホーク・ダウン

 本日紹介する作品は、戦争映画。失敗した米軍の実際の軍事作戦に取材した……ってなんかこれ毎回言っているような。そりゃ失敗した作戦の方がドラマチックなんだろうけど、『ローン・サバイバー』といい、失敗した作戦を映画にするのがアメリカ人は好きなんだろうか。

1 概要
 本作は米軍のソマリア出兵と、そこで起きた実際の作戦を元に制作されている。1993年、アメリカは民族紛争の続くソマリアへ出兵し内戦の終結を目指す。そのためには、紛争を指揮するアイディード将軍たちを捕らえる必要があった。

 米軍は将軍の副官二名を含む人物たちが集合するポイントで、彼らの拘束作戦を画策。オリンピックホテルに集まった彼らを、ヘリで急襲し拿捕することに成功する。しかし将軍の率いる民兵が放ったロケットランチャーがヘリに被弾。二機のヘリ、ブラックホークが墜落してしまう。米軍はいるかもしれない生存者救出のため、作戦内容を変更せざるを得なくなる。

 かくして三十分で終わると言われていた作戦は、一日がかりの泥沼にはまっていく。

2 緊迫した絵作りが上手い
 本作は二時間半と映画の中では長尺で、かつその大半が戦闘シーンにつぎ込まれている。しかし見ていて飽きるということはなく、また逆に戦闘シーンの連続で疲弊するということもない。視聴者が適度な緊張感で映画に没入できるほどよい緊迫感を持った映像づくりが非常にうまいといえるだろう。

 やはり戦闘シーンで迫力があるのは、米軍が民兵に囲まれてひたすらな戦いを迫られているところだろう。ブラックホークの墜落地点は敵の支配するエリアのただ中で、そこへの救援に向かうため多くの兵士が敵だらけの街を突っ切るという危険を冒すことになる。建物の上から銃やロケランで狙われ、装備や練度では勝るが数で劣る米軍は徐々に疲弊し、弾丸も尽き、死傷者を出していく。

 危険を顧みず突っ込んでくる数の多い民兵、という恐怖を端的に表しているのが墜落したブラックホークでの戦闘である。生存者であるヘリのパイロットと、救出のため降り立った二人の兵士はブラックホークを取り囲むように迫りくる民兵相手に戦闘を迫られる。しかしゾンビ映画もかくやという、人の波となって押し寄せてくる民兵にはなすすべもなく、拳銃すら撃ち尽くしてもついには民兵に圧し負けてしまう。

 一方で緩急のつけ方も上手だ。緊迫した戦闘シーンの合間に入る緩やかなシーンのお陰で、視聴者は集中力を切らさずに映画を見ることができる。通りの角を制圧し確保していた二人の兵士が置いていかれてしまい、どっちに行っていいか分からず右往左往する様はどこかコメディ的な呑気さがある。「うるさいから耳元で銃を撃つな!」と言われたのに相方がすぐ耳元で銃を撃ち始め、そのせいでもうひとりの耳が聞こえなくなってしまうシーンはコメディとして完璧だろう。

3 実際の出来事
 本作は何度も言うように、実際にソマリアで起きた「モガディシュの戦闘」を元に描かれている。そもそも米軍のソマリア出兵は平和維持活動、日本ではPKOと言われる活動の一環だったが、作戦自体は米軍単独のものだったようだ。映画でもパキスタン軍に救援要請を出すが、そもそもパキスタン軍が作戦を知らされていなかったために救援が遅れるシーンがある。

 この戦闘の悲惨さから、米国では撤退の世論が拡大。当時のクリントン政権はソマリアからの撤退を余儀なくされる。するとこの戦闘で亡くなった19名の兵士は無駄死にだったのか、そもそも民族紛争介入自体に無理があったのかなど、いろいろ考えてしまう。ただ、こうした戦闘の果てに、それ以降の米軍がミサイル攻撃や空爆といったハイテク戦争への舵切をするきっかけになったようでもある。

 いつものようにサムネになる画像を探していたところ、「ブラックホーク・ダウンごっこ」というものを見つけた。映画に登場する格好をしてサバゲーをしているようだが、なんだろう、この、決定的にズレている感じは。いったい彼らは映画から何を見て取ったのだろうか。ミリタリズムのかっこよさだけしか分からなかったのなら、なんとも寒々しい視聴者だと思わずにはいられない。