プライベート・ライアン

 今回紹介するのは、スピルバーグ監督作であり、戦争映画の中でも屈指の傑作であろうと思われる『プライベート・ライアン』である。NETFLIXで視聴することができるが、視聴時間は脅威の2時間50分である。なかなか気軽に見ることの出来ない一作だが、腰を据えて見るだけの価値がある作品なのは間違いない。

1 概要
 物語は有名なノルマンディー上陸作戦から始まる。その作戦の最中、米国司令部ではタイピストたちが戦死報告をただひたすらに打ち込んでいた。ところがタイピストたちがあることに気づき、上官に報告する。それは米軍に所属していたライアン四兄弟のうち、兄三人が戦死したということだった。

 これを受けて上官は、残る弟のジェームズ・ライアンを連れ戻すよう指示する。しかし問題のライアンはノルマンディー上陸作戦の前日、空挺降下に失敗し敵地で行方不明になっていた。そこでライアンを救出する部隊が編成される。

 その任務を受けたのはレンジャー大隊のミラー大尉。彼は六人の部下と、通訳として技能兵のアパムを連れていく。こうした敵地の中を8人は進み、たったひとりの、ただの一兵卒を助けに行くという割に合わない任務が始まる。

2 丹念に描かれる戦争
 前述の通り、本作は2時間50分にも及ぶ超大作である。その原因とも言えるのは、あまりにも丹念な各種の描写だろう。

 序盤のノルマンディー上陸作戦、中盤の作戦と無関係な機関銃潰しなど、省略、短縮しようと思えばどこまでもできた。戦争描写だけでなく、兵士たちが軽口を叩き合う様など、本作はとにかく丹念に描いている。その気になれば2時間くらいまで短縮することはできそうだし、その分テンポを上げることもできたはずだが、そうはしなかったのである。

 にもかかわらず、本作は取り立ててテンポが悪いわけでもないし、視聴者を飽きさせることがない。臨時で加わったアパムが徐々に部隊の一員になっていく様や、ようやく探したと思ったライアンが同姓同名の別人だったりと、中々に飽きさせない構成をしていてその点は見事だ。

 長い時間をかけて戦争のむごさを描写する中でも、決して視聴者を離さない構成のお陰で、本作は強い没入感を伴う。一見すると無駄に見えるいくつかのシーンも、我々がミラー大尉の部隊とともに苦難を乗り越えるという体験を共有する上では大切なシーンなのだ。

3 それは割に合うのか
 本作のひとつのテーマは、やはり8人でひとりを救出しに行くという任務の、どことないバカらしさだ。上官が適当に考えて決めた作戦に部下が翻弄される。当然、ライアンは捜索隊からは歓迎されない。

 しかしここで大事なのは割に合うかどうか、ではない。ミラー大尉はこの任務を遂行すれば故郷の妻に誇れるようになると言う。確かにあまりにも割に合わないし馬鹿げた任務だが、家族の元に残ったひとりの子どもを送り返すという任務を通じ、自分たちが誇りを持つためにその仕事をやり遂げる様が描かれる。

 そんな彼らの任務がどのような結末を迎えるか、それはぜひ彼らと苦楽を共に体験する中で明らかにしてほしい。


プライベート・ライアン (新潮文庫)
マックス・A. コリンズ
新潮社
1998-07T