無能なナナアニメ

 10月も中盤に入り、個人的に今期一番気になっていたアニメ『無能なナナ』も三話を迎えた。三話、というと漫画にしろアニメにしろ、読者をここまででがっちり掴めるかが重要な局面になる話数だ。そこで今回はアニメ本編を三話まで視聴したところ『無能なナナ』のレビューをしてみようと思う。普段はNETFLIXで既に全話配信されているアニメばかりをレビューしているから、こういう形式は初めてだろう。

 ここからは三話までのネタバレも含まれるので読む際には留意してほしい。


1 ナナの二面性
 本作の物語において重要なのは、やはり主人公柊ナナが見せる二面性だろう。クラスメイトと接する陽気で明るい性格と、裏ではかりごとをするときの真剣で陰鬱とした性格のふたつをいかに表現するかが重要になっている。特にアニメでは声優がその役割の多くを負うことになる。

 柊ナナの声優は大久保瑠美。個人的には聞いたことがない名前だったが、かなり有名な声優らしい。調べてみるとFGOのエリちゃんやアストルフォの声優でもあるらしい。ああなるほどという感じ。底抜けに明るいキャラの声を演じる場合が多いらしい。

 陽気な面はもちろんとして、彼女の演技はナナの裏面においても十分に発揮されている。表の顔と裏の顔で声のギャップが思いのほか大きく、ナナの二面性がよく表現されているだろう。ただ真剣味を帯びているだけでなく、ナナは自分の思考を独白という形で開示する場合が多いのだが、彼女の声はかなりはきはきして聞きとりやすいので、本作の主人公としてはぴったりな人選だっただろう。

2 ぶれないキョウヤ
 一方、ナナと敵対する不老不死の能力者小野寺キョウヤの声優は中村悠一。『氷菓』で折木奉太郎の声を当てていた人だ。クシャクシャ頭でダウナー系の男子高校生の声はこの人と相場が決まっているのだろうか。落ち着いて語り、しかしどこか抜けたところのあるキャラクターにぴったりである。

 そういえば一話で退場した中島ナナオの声優は下野紘。とにかく最近話題が尽きない『鬼滅の刃』では善逸の声を当てていた人だ。こちらも二面性というか、ひょうきんなキャラから落ち着いたキャラまでこなせる人物。有名どころの声優を当てたのは、まさか彼が一話で退場するとは思わせないためだろう。声優目当てで見るというアニメの見方はしたことがないので、この辺りの感覚はよく分からないが。

3 1話から3話の流れ
 さてアニメ本編はまず1話で転校してきたナナが実は殺人鬼だと判明するという衝撃的な展開で結末を迎えた。OPは彼女の本性を視聴者が知っていることが前提の構成だったため、1話終盤で流されることになった。ちなみにOPの映像は本編の様子を断片的に映していて、そこから1クールでどこまで話を進めるかはおおむね理解できる。

 というか原作者、アニメ化したときのことを考えてあのペースであの展開を用意したんじゃないかと思うくらい展開がぴったりだ。るーすぼーいは美少女ゲームなどでシナリオライターを手掛けていた実績があるらしいので、案外アニメ化の事を計算に入れていたのかもしれない。

 2話はナナの殺人鬼としての活躍を中心に描いている。時間遡行というトリックは原作とアニメの両方で確認しても矛盾点や不可解な点がけっこうある話だが、つかみの2話ということで能力の厳密さよりもテンポとナナの殺害方法の意外さに焦点をしぼった格好だ。しかしあっけなさすぎてアニメ勢には少し分かりづらかったようでもある。本作前半の瑕疵というか、弱点がここら辺の展開の粗削りっぷりだったりする。サスペンスだから丁寧に描いてほしい一方、漫画という媒体を考えると丁寧さよりもテンポを重視した方が受けがいい、という側面がある。

 そして3話。能力が不明な相手であるキョウヤに対しやや仕掛けを焦ったナナだったが、まさかの相手は不老不死。一応弱点はあるらしいが、能力者の殺害を目的とするナナに大きな障害が生まれ、しかもそいつが自分を疑っているという厄介な状態に陥る。一方でキョウヤ視点だと、ナナが何やら企んでいるところまでは分かっても、まさかナナが無能力者だとは思っていないし、仮にナナが殺人鬼だとしてもどうして殺そうとしているのかは分からないという状態。互いに疑惑を持ちながら、いま一歩踏み込めないというもどかしいところにいる。

4 これからの展開
 さて次回の4話は「ヒーリング」。傷をなめると回復させられるという能力者、犬飼ミチルが登場する。本作においてかなり重要な位置を占める登場人物でもある。

 キョウヤという疑惑の目をかわしてナナが能力者狩りを続けるか、それとも致命的な何かをキョウヤが握るか。ナナとキョウヤという対立構図がはっきり現れ、さらにサスペンスに磨きがかかる。


無能なナナ 1巻 (デジタル版ガンガンコミックス)
古屋庵
スクウェア・エニックス
2017-02-22