サイコパス研究ノート
 
 精神病質。いわゆるサイコパスという言葉が安易に使われ出したのはいつごろからだろうか。最近、というほどでもないが、ここしばらくではアプリで安易なサイコパス診断が流行ったりしていた様子だ。念のため言えば、サイコパスはれっきとした診断名なので、アプリなんかで診断はできない。

 そういう、安易でキャッチャーな名前として客を釣る要素の強いサイコパスという存在だが、本作は比較的専門性を強く保っている印象だ。

 本作には二人の主人公が登場する。一人は表題にも出ている月澪彩葉。大学院生である彼女はサイコパスを研究しており、常々「自分の理解できないサイコパスに会いたい」と思っていた。そんな彼女が出会ったのが、もう一人の主人公である北條正人だった。彼は共感覚の持ち主で、人を見ると様々な景色が同時に見えるという。

 彼の共感覚を利用し、サイコパスの炙り出しを研究することになる月澪。だが同時に、規則性の無い連続殺人が発生する。普段から警察に協力している月澪はいつもどおり事件に首を突っ込むが、その陰にはサイコパスが蠢く。さらに、サイコパスに接近し過ぎた北條にも異変が現われはじめ……。

 本作にはサイコパスの他、共感覚やフォビアといった専門性の高い用語が頻出する。まあ一種の専門系ミステリなのだ。話の肝は、共感覚を持つ北條を用いて、サイコパステストはスルーするが実はサイコパスという人間を区別できるか、という点にある。テストは通過するが、実はサイコパスという人間こそ、月澪が探す理解できないサイコパスの可能性がある。逆にいくらサイコパスと言えど、大抵はそこまで理解不能というわけではないのだ。

 ただ、本作におけるサイコパスの位置づけは極めて不明瞭だ。マイルド・サイコパスとか、デミ・サイコパスとか不明確なサイコパスの概念が頻出するからだ。というかこれは直感的な話になるのだが、これらの概念は本当にきちんと専門的に処理されているのだろうか? マイルドヤンキーとか新型うつのように、こうした微妙な立ち位置の概念は専門家を騙る詐欺師がよくぶちあげる概念なので……。

 サイコパスも決して理解不能な人間ばかりではないというのは分かるが、一方でこうした概念がどこまで正確に専門領域の知見を参照されているか疑問が残る。私はまあ判断できないんだが……。この辺りは詳しく知っている人間に聞きたいところだ。