pink
 
 今回紹介する一冊は、普段少年漫画ばかり読んでいる私にはあまりなじみのない一冊。文学にすら到達したと言われる漫画家岡崎京子の一冊『pink』である。

 物語は主人公の由美子がホテトル嬢(ホテルへ出張する風俗嬢)として働くシーンから始まる。彼女は会社でOLとして働く一方、ホテトル嬢として副業をしていた。その目的は買っているワニのエサ代と本人は言うが、彼女の金銭状況は詳らかにされていない。また、神のお告げがあったこともホテトル嬢になった動機と語るが、彼女の語り口から分かることは、体を売って金を得ることへのビジネスライクなまでの抵抗感の無さと割り切りである。
 そんな日々を過ごす由美子は、ある日妹から母親が若い男を買っているという情報を仕入れる。その母親とは由美子の継母にあたる人間で、妹とは腹違いのようである。その男に興味を持つ由美子だったが、別の日にホテトル嬢として働いたホテルで、偶然母親と男を見かけてしまう。タクシーに乗って後を追いかけ、男の身許を割り出す。彼はハルヲという大学生で、小説家を志しながらもボロアパートの一室でくすぶっているごく普通の男だった。
 それから、由美子とハルヲ、妹のケイコを中心とする三人の物語が進んでいく。あるときは浮気を疑った(事実浮気をしているようなものだが)ハルヲの恋人が由美子の部屋に乱入し、ワニを見て気絶する。ワニに食わせてやると息巻く由美子を宥めつつ恋人を酒に酔わせることで何とかハルヲは事態を誤魔化す。あるときはケイコにカフェへ呼び出され、書いた小説を酷評される。
 そんな中、部屋をジャングル化するという無謀な計画を立てた由美子だったが、当然破綻し部屋を追い出される。ハルヲのアパートに転がり込んだ由美子だったが、同時に母親が自分の愛人を娘に奪われたことに気づき、復讐としてペットのワニを革製品にしてしまうことを思いつき…………。

 作者があとがきで語る通り、この物語の中心をなすのは愛と資本主義である。由美子はホテトル嬢として愛を売り、母親は若い男の愛を買う。その中で出会う由美子とハルヲの間に芽生える愛情は、資本主義とは一線を画するものの中から生まれていく。しかし物語の最後でハルヲが書いた、というより切り張りして作り上げた「宇宙小説」はそれこそ商品である小説のパッチワークであり、ハルヲと行くことを試みた南の島は、まさに資本主義的なツーリズムの中から生まれるパラダイスだ。
 彼らは愛と資本主義を巡る冒険の果てに、どこに辿り着いたのか。その答えはぜひ読んで確認してほしい。

pink
岡崎 京子
マガジンハウス
2010-07-29