さてここで普段の制作経緯をまとめる系記事ではあまりやらない、コンテストに応募された他の作品を少し見るようなこともしてみようと思う。さすがに応募された作品をいちいち読んでみることはしないが、どういう作品が応募されているのかをちらっとでも見て記録し、カクヨムに限らずWeb小説投稿サイトのコンテストの空気感を記録したいという試みだ。

1 発端
 そもそも私がどうしてそんな記録を取ろうと思ったのかと言えば、以下の動画に挙げるような件が以前持ち上がったからだ。

 動画の投稿主は『なろうデスゲーム』でお世話になっている幽焼け氏。YouTubeではなろう系を馬鹿にするレビュワーが跳梁跋扈する中、かなり良心的なタイプのレビュワーと言えるだろう。

 で、動画の内容だが、2021年にカクヨム上で開催された『武蔵野文学賞』が無法地帯と化したというお話である。当該文学賞は武蔵野を舞台とした短編を募集するコンテストだったのだが、動画にある通りそこに応募された作品はファンタジーなどのいわゆるなろう系、あるいは一般的なライトノベル系が多かったという話である。

 近年では様々なコンテストがWeb小説投稿サイトで開催され、またラノベの新人賞もサイト掲載作品をそのまま応募できるようになっている。一昔前ならどうしても印刷が必要だったが、今やコピー機もパソコンも新人賞へ応募するのに必要ないわけだ。紙とペンどころか、難民でさえ持っている必須アイテムのスマホさえあれば小説家になるチャンスを得られると考えると実に胸の躍る時代だが、その分やっかいな問題も抱えているようだ。

 賞の規定にそぐわないにも関わらず応募できてしまう問題はサイト側からのアプローチで解決できる部分が多く、例えばこの記事を書いている現在カクヨムで応募できるコンテストのひとつ『カドカワ読書タイム短編児童小説コンテスト』では選択ジャンルによってこのように応募できないようサイト側が弾いてくれる。
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 とはいえカクヨムで小説の選択ジャンルを変更するのは容易で、その気になれば規定に合わない小説を応募するのは難しくない。まあこの辺は、自転車泥棒に対してダブルロックを対策とするように、多少でも面倒くささを演出すると結構防げたりするのかもしれない。

 というのもこの手のコンテストがサイト利用者から「ソーシャルゲームのイベント」に近い感覚で受け入れられているのではないか、という仮説を以前どこかで聞いたことがあるからだ。

 コンテストの開催者とサイトの利用者で文学賞に対する認識の違いなどもあるようで、じゃあ今回の『デスゲーム小説コンテスト』はどうなってるの? というのを確認しようと思ったわけだ。

2 実際どうなの
『デスゲーム小説コンテスト』ランキングはこちら

 それではざっくりと見ていこう。今回見るのは5月16日時点での週間ランキングであるのであしからず。まずは拙作『転生令嬢デスゲーム』はどうかな?
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 おお、100位どころか50位近くとは。やはり異世界恋愛の皮を被ったのは正解だったのだろうか。なろうではあんまりうまくいかなかったけど。そういえば『不浄の聖女』もなろうよりカクヨムの方がPV跳ねたしなあ。あるいはカクヨムで私が今まで小説を出した分、何かしら新作も見られやすい状態になったのだろうか。

 では私の作品の周辺順位からちらっと。ジャンルはファンタジーがやや目立つものの、ホラーやSF、ミステリなど多くのジャンルがちらほらと見える。まあ応募規定には「現代を舞台にした」とあるんだけどね。

 ただ『アイドルデスゲーム』が現代ファンタジーという自己規定なあたり、そもそも執筆者の認識において「ファンタジー」が包括するジャンル内容が一般的な認識よりも広大になっている可能性はあるようだ。試みに『アイドルデスゲーム』のあらすじを見てみると、西暦4500年の地球が舞台とのことで、いわゆるポストアポカリプスもの、SFと規定しても問題ないかもしれない。

 Web小説の読者はファンタジー系を望む人がどうしても多く、執筆者としてもファンタジージャンルに入れておいた方が得、ということもある。現代が舞台という規定なのにファンタジーなんて……という以前に、そういう小説投稿サイトの力学のようなものは考慮されてもいいかもしれない。
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 ちなみに1位から10位がこんな感じ。基本的な傾向はそう大きく変わらないようだ。まあ10位以内と60位以内くらいではそう変わらないか。そして内容は概要を見る限りでも多岐に渡るようで、当初心配していた「SAOみたいなVRゲームものばかり」みたいな事態にはならなかったようだ。

 この辺は投稿規定がデスゲームジャンル、そして現代を舞台にしたというところが妙手だったかもしれない。

3 意外と多彩で
 『デスゲーム小説コンテスト』は6月中旬まで開催中である。普段は異世界転生追放無双悪役令嬢とまあある程度画一的なパターンばかりがWeb小説だと思っている人にも、今回のコンテストは是非確認してほしい。異世界ファンタジーというテンプレの地表を少しでも掘ってみると、実は小説投稿サイトには多くの作品が眠っているのだ。まあそんな作品を探るくらいなら商業プロ作家の作品を読むぜ、という立場もあるだろうけど。

 実際異世界ファンタジーが目立ちがちというのはあるが、コンテストは新人を発掘するだけでなく、こうして多くのジャンルをサイト上で目立たせ、サイト内を換気するような役割もあるわけだ。次の学園ミステリコンテストも楽しみだ。