『高校生探偵・猫目石瓦礫シリーズ』(カクヨム)はこちら

  さて前回記事で主人公について語ったなら、次はヒロインについて語らないといけない。いやそもそも本シリーズのヒロインって誰なのという話だが、一応個人的には夜島帳と笹原色を規定している。

 いや笹原って『日常』から登場したキャラだよなと思うかもしれないが、前回記事で話したようにカクヨム掲載前に大学時代に短編を書いており、そちらのヒロインとして当初から笹原は登場していた。実は『不釣り合いな冒険』も当初は笹原をヒロインに据える計画があった。結果的にヒロインは帳が務め、笹原の登場は『日常』まで持ち越しとなったわけだ。

 そんな二人のヒロインについて語っていこう。

1 夜島帳:時代遅れのファムファタル
 さて夜島帳だが、彼女はいつかの記事で語ったこともあるが、乙一『GOTH』に登場するヒロイン森野夜の影響を受けて作られたキャラだ。結果的に似ても似つかない感じになったが、まあその方がオリジナリティがあっていいだろう。そんな彼女は猫目石瓦礫を振り回すヒロインとして造形された。猫目石瓦礫が惹かれ、彼女のために推理をする。彼女もそれを分かっていながら、表面上はそ知らぬふりをして振り回す。そういう関係を想定していた。

 この関係性は長編においてはうまく機能した。ゆえの『冒険』だったわけだが、実はこの設定、短編だとべらぼうに使い勝手が悪い。なにせ帳が瓦礫を事件に巻き込むのにだいぶ言葉を費やして何とかかんとか瓦礫を篭絡しないといけないのだからテンポが悪い。そういう経緯で、短編構成が中心の『日常』では出番が少なくなってしまった。後述するように短編には笹原の単純さがとにかく相性が良かったのだ。

 また帳という造形は今にしてみるとかなり時代遅れだ。喋り方もいかにもな女言葉で、いまどきこんな喋り方する奴いねーよと。なんというか端々に物語上都合のいい「女らしさ」を内包したキャラである。そういう事情もあって、昔はともかく今だと書いていてどこかしらけるキャラなので使いにくい、という事情もある。その辺は少しずつキャラを変えていって対応しているが、今後も彼女の出番は減っていく可能性が高い。作者が価値観をブラッシュアップするとこういう問題も起きるんだなあ。

2 笹原色:物語の駆動装置
 ひるがえって笹原だが、彼女はとにかく物語を動かすための装置として機能している。なにせ「先輩! 事件ですよ!」で瓦礫くんを引っ張っていけばそれで物語の導入が終了するシンプルさだ。使い勝手が良すぎる。恋人枠が帳で埋まっていることもあって、恋愛感情抜きの先輩と後輩の友情関係で成立しているのでどれだけ仲良く絡んでも場面が湿っぽくならない。結果、大学時代の短編でも多用していたが、『日常』他でも出番が多い。彼女を出して今後の布石にするために『日常』自体があると言っても過言ではない。

 前述したとおり帳はいかにも「女らしい」。当時の私が理想とするヒロイン像を詰め込んだ結果、価値観が変わった今だとどことなくとっつきにくいキャラになってしまった。それに対し笹原は物語の駆動装置に徹し、瓦礫をリードする道化役なのでその辺の心配もない。こういう点からも使いやすいのがいい。

 そんな素朴なキャラだが、さすがに猫目石瓦礫のインフレに伴い『現役女子高生ラジオパーソナリティ』という地位を獲得することになった。これは彼女がトレードマークとして赤いヘッドフォンをしていることからの後付けだが、そもそもそのヘッドフォンだって、実は大学時代に書いた短編に登場する彼女の姉からの伝来なので、いろいろねじくれている。だから瓦礫くんはヘッドフォンについて「別の人物の特徴をシールで貼り付けたよう」だと思っていたりする。

3 これからのヒロイン像
 そんな二人を通じ、これからどういうヒロインを形成していくのがいいか考えている。帳のようなヒロイン像はいかにもラノベ的なので、ライトノベルとして物語を構成する上では必要な立ち位置である。だが同時に近年の規範意識のブラッシュアップを考えると、そのままというわけにはいかない。どうしても、ライトノベルでは主人公の少年とヒロインの少女の恋愛的関係性が必要とされてしまう。そもそもそういうライトノベルのスタンダード自体がそぐわないと言えばそれまでだが、もしライトノベルとして作品を評価されたいなら、表面的にもそのスタンダードをなぞる技術が必要だろう。

 一方の笹原はとにかく使い勝手がいい。中性的で恋愛感情もないのでこれからどんどん価値観が変遷していっても、あまり古びないタイプのキャラだ。その分、物語を駆動する道化役にふさわしいが主人公の運命を変えるほど劇的な人物にもなりえない。そもそもヒロインが主人公の運命を変えるというのも古臭い価値観だが、その価値観に沿わないと評価されないなら沿うフリだけはしないといけない。

 まあ、こういろいろ考えてもここ最近は女性主人公を取るケースが多いのでヒロイン像の構築はまだ甘いところが多いのだが。今後男性主人公で物語を構成するならば、ヒロイン像をもっとアップデートしつつ、同時に従来的な古臭い感覚を表面的に残すような処理は求められてくるだろう。なにせクリエイティブ業界自体はまだ価値観を全然アップデートできていないが、対する読者は中にはアップデートがかなり進んだ人間も多い。どちらにも対応できるのが望ましい。